そんなことを考えていると、アリアがバッグをそっと愛おしそうに胸元に抱きしめた。
「……このバッグ、夜遅くまで作業してたんだね……だから寝坊してたんだ……」
そして、ほんの小さな声で、照れるようにぽつりとつぶやいた。
「ふふ……ありがとぉ、ユウくん♪」
その頬はうっすら赤く染まり、どこか嬉しそうで―― ほんの少し、目の奥が潤んでいるようにも見えた。
……まあ、夜に作っていたのは事実だけど。 実際の作業時間は、魔石のセットと魔法の付与だけで、たった15分くらいだった。 とはいえ、本来このタイプのバッグは―― 魔石を加工する職人、装飾を施す職人、魔法を付与する魔術師や付与師など、 数日がかりで複数の熟練者が関わる、かなり大掛かりな魔道具らしい。
だから、アリアがそう思うのも無理はない。
「面倒かもしれないけど……売りに行くときは、元のバッグに詰め替えてくれる?」
俺がそう伝えると、アリアはこくりと頷いた。
「うん。わかったぁ♪」
「バッグに入り切らなくても、異空間バッグに入れてれば劣化はしないから、小分けにして売りに行けるよ」
「すご〜い♪ 便利だね〜」アリアは、嬉しそうに目を輝かせ、早速バッグに摘んだ薬草を慎重に入れていた。
♢討伐とアリアの優しさ「俺はアリアの後ろにいるから、薬草採集に集中してていいよ」ユウヤは、薬草採集に集中するよう促した。
アリアは、少し驚いたように首を傾げた。「え? ユウくんは、魔物とか魔獣の討伐をするんじゃないの?」その小さな瞳が、俺の顔を見上げた。
「するけど……薬草を採集してる時に襲われることが多いらしいぞ」俺が答えると、アリアは自信ありげに胸を張り、「わたしも戦えるし、大丈夫だよぉ?」と可愛らしく言った。
「良いから薬草を採りなよ」俺は、少し強引に言い聞かせた。
するとアリアは、ううぅ、と小さく唸った後、俺にぎゅっと抱きついてきて「ありがとぉ♪」とお礼を言った。
「ユウくん、優しすぎぃ〜好きぃー♡」アリアが甘えるように言うので、俺はつい照れて「あ、ありがと……」と返した。
昔からアリアにはよく言われていて慣れているはずなのに、最近は一緒に行動していて可愛く思えてきて、ドキッとして恥ずかしくて照れてしまう。
アリアは俺の顔を覗き込み、にこにこしながらからかうように言った。「わぁ〜ユウくん顔赤いよぉ〜? えへへ……」その瞳は楽しそうに輝いていた。
俺は、照れ隠しで言い返した。「アリア、からかうなよ。アリアも顔赤いし! 早く薬草を採りなよ」
「えー? わたしも顔が赤い? そうかなぁ? えへへ……」アリアは自分の頬に両手を当て、少し恥ずかしそうに俺を見つめた。それから可愛く首を傾げて、ニコッと微笑み「はぁ〜い♪」と返事をした。その仕草が、たまらなく可愛かった。
途中で魔獣や猛獣が現れたが、いつも通りに討伐した。魔獣からは魔石と素材を収納し、食べられそうな獣は丸ごと昼食用と販売用に収納した。普段通りに何も気にせず、低級魔法をパシュ! パシュ! と放ち、猛獣を討伐していると。
アリアが、俺の行動を見て、慌てたように声をかけた。「ユウくん……それ中級の魔獣だよ」彼女の声には、少し焦りが混じっていた。
俺は、あっけらかんとした顔で答えた。「え? あ……そうなんだ」
アリアは、心配そうな顔をしながら、「気をつけてねー」と少し困ったように言った。
もう倒しているし、「気をつけてね」の意味は、素材や魔石を売る時にってことだよな。自分より高ランクの魔物、魔獣の討伐をすると魔石と素材の販売はできるけれど討伐ポイントは付かない。
まあ……レベルが高くても駆け出しの冒険者ってのはいるし、逆にレベルが低くても、運よく魔獣の死体を見つけて魔石や素材を回収すれば、それを売って収入にできる。だから、討伐していても、していなくても、魔石や素材の販売自体には特に問題はないんだよな。
ただ、討伐を行った場合には、その記録がタグに残るらしくてさ。だからこそ、アリアの「気をつけてね」って言葉……あれは、ちゃんと気にしておかないといけない。もしタグの内容を確認されでもしたら、討伐の記録が残ってるせいで面倒なことになりかねない。
普段は、討伐ポイントの申請って自己申告制なんだけど、販売だけしてる場合にはタグのチェックはされないんだよな。……たぶん、アリアは俺が何かを隠してることに気づいて、それとなく注意してくれたんだろう。頭の回転が速いし、俺なんかよりずっと魔物や魔獣のランクも詳しく覚えてるから、本当に頼りになるよ。
「アリアって、頭いいよな〜」俺が感心したように言うと、アリアは照れたように笑った。その頬はさらに赤みを増していた。
「ユウくんほどじゃないよ。ユウくんは色々な魔法をたくさん使えるし、わたしには真似できないもん。うふふ……♪ 本当にすごいよ。わたしの自慢のパーティなんだから♪」
そう言いながら、アリアは薬草を摘みつつ、頬をほんのりと赤らめていた。その背後で周囲を警戒していた俺に、彼女はチラ、チラ……と視線を送ってくる。その視線に気づいた俺は、つい意識してしまい、恥ずかしくて彼女のほうをまともに見られなかった。
そんなことを考えていると、アリアがバッグをそっと愛おしそうに胸元に抱きしめた。「……このバッグ、夜遅くまで作業してたんだね……だから寝坊してたんだ……」 そして、ほんの小さな声で、照れるようにぽつりとつぶやいた。「ふふ……ありがとぉ、ユウくん♪」 その頬はうっすら赤く染まり、どこか嬉しそうで―― ほんの少し、目の奥が潤んでいるようにも見えた。 ……まあ、夜に作っていたのは事実だけど。 実際の作業時間は、魔石のセットと魔法の付与だけで、たった15分くらいだった。 とはいえ、本来このタイプのバッグは―― 魔石を加工する職人、装飾を施す職人、魔法を付与する魔術師や付与師など、 数日がかりで複数の熟練者が関わる、かなり大掛かりな魔道具らしい。 だから、アリアがそう思うのも無理はない。「面倒かもしれないけど……売りに行くときは、元のバッグに詰め替えてくれる?」 俺がそう伝えると、アリアはこくりと頷いた。「うん。わかったぁ♪」「バッグに入り切らなくても、異空間バッグに入れてれば劣化はしないから、小分けにして売りに行けるよ」「すご〜い♪ 便利だね〜」アリアは、嬉しそうに目を輝かせ、早速バッグに摘んだ薬草を慎重に入れていた。♢討伐とアリアの優しさ「俺はアリアの後ろにいるから、薬草採集に集中してていいよ」ユウヤは、薬草採集に集中するよう促した。 アリアは、少し驚いたように首を傾げた。「え? ユウくんは、魔物とか魔獣の討伐をするんじゃないの?」その小さな瞳が、俺の顔を見上げた。「するけど……薬草を採集してる時に襲われることが多いらしいぞ」俺が答えると、アリアは自信ありげに胸を張り、「わたしも戦えるし、大丈夫だよぉ?」と可愛らしく言った。「良いから薬草を採りなよ」俺は、少し強引に言い聞かせた。 するとアリアは
♢新たな冒険のはじまり「いつもの場所だと、シャルが探しに来るかもしれないし……せっかく冒険者になって初の仕事だし、邪魔されたくない」 そう心の中でつぶやきながら、俺は隣に立つアリアに、新しい目的地を提案した。「俺は何度かそこに行ってみたけど、人はいないから気にせずに魔法が使えるし。目当ての薬草も手つかずでいっぱいあったよ」 アリアは、少し迷ったような顔で「うぅ〜ん……ユウくんが、そう言うなら……行ってみようかなぁ……」と、小さな声で言った。視線はゆらゆらと揺れ、何かを考え込んでいるようだった。(あれ……俺、無茶なこと言ってるかも? 大丈夫だよな? 無茶じゃないよな?)アリアの困っているような表情を見て、俺は少し心配になった。でも、ちゃんと下見もして安全の確認、薬草の種類まで調べたしな。「危険だと思ったらすぐに帰ってこような。アリアも危険だと思ったら声をかけてな」俺が念を押すと、アリアはほっとしたように、小さく「うん。わかったぁ」と、こくりと頷いた。 普通は歩いて、徐々に行動範囲を広げつつ色々な情報を集めていくんだけど、そんなことをしていたら、自分たちの情報を隠しておけなくなるし、周囲に気を使って窮屈だ。だから俺たちは転移魔法で、目的地まで一気に移動した。 視界が開けた瞬間、アリアの瞳がきらきらと輝いた。「わぁ〜ホントだぁ〜! 薬草がいっぱいっ♪」目の前に広がる薬草の群生地に、アリアは興奮を隠しきれない様子で、思わず一歩踏み出した。「そうそう……これ使ってよ」 レベルの急上昇に伴って、俺はさまざまなスキルを次々と習得していった。 中でも特に便利だったのが、《異空間魔法》だ。 この魔法を応用し、魔石に空間属性の付与を施して、自作のバッグを制作してみた。 魔石は装飾品のようにバッグの表面にあしらい、見た目も華やか――異空間型の魔道具だ。 その内部は、討伐した猛獣すら楽に収められるほどの膨大な収納容量を持っている。
♢変わってしまった関係 思い出したように怯えた表情で話してきたシャルは、話し終わる頃には表情を変え、顔を赤くさせていた。 まあ……あれは、怖かったと思うけど。シャルは俺たちをパーティだと思っていたのに、何の相談もなしなのか? 会いに来ないばかりか、他の男子と仲良く遊んでいて、今更「やり直そう」って言われても無理だろ。「冒険者になりたいなら、他の男子とパーティ組めば良いじゃん。仲良さそうだったろ。俺はアリアとパーティを組んでるし」 ユウヤが突き放すように言うと、シャルは泣きそうな顔で訴えた。「うん……知ってるよ。私も一緒に……。私は、前衛だしさ……力になれるよ。絶対!」 残念だけど、前衛は必要ないんだよな……むしろ、入られると動きにくくなると思う。 シャルが加わるとなると、支援魔法に回復魔法、それに援護魔法まで必要になるだろ? でも今のところ、アリアと一緒に魔物討伐してて、支援も回復も一度も使ったことがない。 それどころか、攻撃を受けたことさえ一度もない――そういう意味では、かなり優秀なパーティなんだ。 まあ、まだ低級の魔物ばかりだけどさ。「必要ないって。他で頑張ってよ……。一緒に遊んでた男子も、冒険者を目指してるんだろ?」 ユウヤは、シャルの目をまっすぐ見て言った。「え? そんなぁ……。別に、あの友達は暇つぶしで遊んでただけで……。ユウくんみたいに仲は良くないよ。一緒のパーティになろうとも思わないし……そこまで信頼はできないしさぁ」 シャルは、必死に弁解した。「いきなり何も言わずに消えたと思ったら、他の男子と仲良く遊んでるし。俺が上手くいきだしたら、やっぱり一緒にって無理だって。友達としては良いけどな。まあ……来年には、この村を出ていくけどね」 ユウヤがそう告げると、シャルは顔色を変えた。
♢無詠唱の力と新たな一歩 前衛は、詠唱時間を稼ぐための存在とも言われている。そのため、体力、防御力、そして敵を攻撃したり身動きを取れなくしたりするための押さえつける力が必要だ。前衛は最強のイメージがあるが、前衛だけのパーティは珍しく、中級レベルの魔物討伐がせいぜい一般的だ。前衛は支援魔法が無ければ、魔物や魔獣のランクが上がってくると、剣が通用しなくなってしまう。 魔術師の方は通常、低級の魔物討伐止まりだ。中級レベルの魔物相手に、逃げ回りながら詠唱ができるわけがない。魔術師が中級の魔物相手を押さえつけ、詠唱できるわけがないのだ。 だけど、俺たちは無詠唱なので、前衛は不要っぽいな。こっそりと転移をして人がいない場所で、上級魔法を無詠唱で放てるか実験したことがあって、成功しているし。 初パーティでの魔物討伐は、アリアの無詠唱を知ることができたし、何よりアリアとパーティを組めて嬉しかったので大成功だった。 ♢ギルド登録とシャルの再登場翌日……「ユウくん。さっきね〜魔物の討伐を友達に誘われちゃった。でも〜ユウくんとパーティを組むことにしたって言って、断っちゃった〜♪」 嬉しそうに笑顔で話してきて、褒めて欲しそうな感じでニコニコして見つめてくる。「アリアは、やっぱり人気があるんだな」 そんなアリアの頭を撫でて褒めてやり、パーティに入ってくれたことに感謝した。「そんなことないよ〜。多分ね、魔術師がいなくて仕方なくじゃないかな〜」 「他のパーティに行くなよ?」 「大丈夫だよ。えへへ……♪ わたしはユウくんと! って決めたしぃ」 アリアとパーティを組んでみて、何の不都合もなく楽しく魔獣や魔物の討伐練習ができた。だいぶ自信をつけたので、アリアの勧めもあって冒険者ギルドへ登録しに行くことにした。 ちょっと不安に思っていたけど……魔力測定やレベル測定を警戒していたが、そんなものはなかった。 この世界は、依頼を達成するとポイントが入る仕組みらしく、強さやレベルでランクが決まるのではなく、依頼達成の実績でランク
♢新しい出会いと予期せぬ仲間 翌日から、シャルが遊び、いや、冒険の誘いに来なくなった。 恥ずかしがってる……のか? それとも嫌われた……? いや、もしかして俺のレベルに気づいたとか――魔物の大量討伐がバレたとか……? はぁ……。 まあ、友達はシャルだけじゃないし、別にいいけどさ。 ……でも、シャルより仲のいい友達なんて、他にいないんだよな。 仕方なく村をぶらついていると、ふと視界の先に見覚えのある姿が入った。 家の前の道端に、一つ年下のアリアがぽつんと座り込んでいた。 手にした木の枝で、地面に何かを描いている。 小さく丸まった背中が、どこか寂しげで――まるで声をかけるのもためらわれるほどに。「アリア〜、暇そうだな?」 ユウヤが声をかけると、アリアは顔を輝かせた。「あぁ〜! ユウくんっ! わぁ〜いっ!」 駆け寄ってきて、抱きついてくるのが可愛い。アリアは魔法の覚えが良く、魔力量も多くて頭が良い。そのせいで、同じくらいの年の友達からは避けられていることが多く、一人でいることが多かったのだ。「ね〜ユウくん。一緒に遊ぼう?」「良いぞ〜」 シャルが誘いに来ない時は、アリアと遊ぶことが多く、すっかり懐かれている。いつも一緒に遊んでいると甘えてくるんだ。俺も、そんな甘えてくるアリアが可愛くて好きだ。それに、俺が魔法のレベルを合わせているのが、魔法の得意なアリアだ。大体の魔法の強さを参考に、俺の出力の基準を合わせている。 それにアリアは、魔法攻撃、防御、支援、回復と珍しく何でも使えて、低級から中級レベルの魔法を使いこなせる。周りの大人から一目置かれているせいか、友達から距離を置かれているんだ。優秀すぎるとこうなっちゃうんだな。「今日は、何をする?」「ん〜何でも良いよー。ユウくんに任せる〜」「アリアは魔法が得意だし、森に行って魔獣の討伐をしないか?」 ユウヤが提案すると、アリアは少し考えてから答えた。「……良いけど。森の奥までは行かないよ〜?」 うわぁ。なんだろう……。この安心できる感じ、新鮮で落ち着くな。いつもは、それが俺が言うセリフだし。「分かってるって。アリアとは初めて組むしな〜」 アリアとは、村の中にある広場か空き地で遊ぶのがほとんどで、討伐というか森に入るのは今回が初めてだ。だから、お互いの実力はまだ知らない。「うん」「お互いの
♢予想外のダンジョン落ち 色々な場所で遊び、時には魔物との戦闘も交えながら冒険を続けているうちに月日は流れ、俺もシャルも13歳になっていた。シャルは、ついに本物の剣を扱えるようになっていた。「ねぇ〜。最近、低級の魔物とか魔獣の討伐、余裕だよね?」「毎日、飽きずに森に通って討伐もしてるし、俺たちも少しは強くなったんじゃないかな」 シャルが本物の剣を扱うのに多少慣れてきたので、父親からも普段から帯剣して良いと許可が下りたらしい。それからは毎日、飽きずに森へ通って低級の魔物や魔獣を倒していた。「だよね、だよね〜。今日は、少し違う所に行ってみない?」 シャルは、目を輝かせながら新しい場所への探索をしたいらしい。「はぁ? ダメだって。まだ危ないって言ってるだろ」 ユウヤは、シャルの無謀な提案に釘を刺した。シャルが一度言い出すと、人の言うことを全く聞かないんだよな……本当に面倒だ。「大丈夫でしょ。危なくなったら、ユウヤの転移があるしさ」 シャルは、ユウヤのスキルを頼りに、強気に迫る。「はぁ〜? 危なくなったら、すぐに帰るからな」 ユウヤは、仕方なく折れることにした。「分かってるってば!」 最近では低級の魔物や魔獣を倒せるようになっていたので、二人で調子に乗ってしまっていた。普段は近づかなかったダンジョンの近くまで来てしまっていたのだ。「この辺に現れる魔獣は楽勝だね!」「まあ〜低級っぽいしね。でも、この先はダンジョンがあるから中級の魔物や魔獣も現れるようになると思うよ」「中級か〜楽しみかもー!」 ダンジョンの中は危険だとお互いに理解していたので、中には入らず、ダンジョンの近くをうろついていた。すると、突然シャルが視界から消えた。地底に落ちるようなシャルの叫び声が、地面の下から聞こえ、遠ざかっていく。慌ててシャルの気配に、無詠唱でバリアを張り、衝撃に備えた。「キャァーーー!!!」「シャルー!!」 ドカンッ! と、何かが着地したような音が鳴り響いた。シャルの無事を確かめるため、ライトの魔法で地底を照らすと、シャルの周りにウジャウジャと魔物や魔獣が大量にうごめいていた。低級から上級の魔物までがシャルを取り囲み、攻撃していてバリアが耐えきれそうにない。「シャルー大丈夫かー!?」「キャァーーー!」 シャルは悲鳴を上げ、そのまま気絶したようで声